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東京高等裁判所 昭和43年(ネ)373号 判決 1973年5月27日

控訴人 森山重男こと 李鳳基

控訴人 江口久雄

右両名訴訟代理人弁護士 桑名邦雄

控訴人李鳳基訴訟代理人弁護士 有賀正明

同 数馬伊三郎

被控訴人 池和田治三郎

右訴訟代理人弁護士 榎本信行

右訴訟復代理人弁護士 門井節夫

主文

一、原判決を取り消す。

二、控訴人李鳳基は被控訴人に対し別紙目録記載の土地につき東京法務局八王子支局昭和四一年七月二五日受付第二二七四八号同日付売買を原因とする同控訴人のための各所有権移転登記の各抹消登記手続をせよ。

三、控訴人江口久雄は被控訴人に対し別紙目録記載の土地につき東京法務局八王子支局昭和四一年一〇月一八日受付第三一一二五号昭和四一年一〇月五日付抵当権設定契約を原因とする同控訴人のための各抵当権設定登記ならびに同支局昭和四一年一〇月一八日受付第三一一二六号昭和四一年一〇月五日付停止条件付代物弁済契約を原因とする同控訴人のための各停止条件付所有権移転仮登記の各抹消登記手続をせよ。

四、控訴人李鳳基は被控訴人に対し別紙目録記載の土地を引渡せ。

五、訴訟費用は第一、二審とも控訴人らの負担とする。

六、本判決主文第四項につき仮に執行することができる。

事実

≪省略≫

理由

一  職権をもって審按するに、原審第七回口頭弁論調書(判決言渡)には裁判官松尾巌が立会い判決原本にもとづき判決言渡をした旨記載されながら立会裁判官として裁判官立岡安正の署名捺印が存する。そこで、右調書の記載によれば右調書は無効というほかはなく、原審の判決の手続が違法なる場合として民事訴訟法三八七条に則り原判決は取消を免れないものといわなければならない。

ところで、本件は、すでに当審において五年にわたり弁論審理をかさね、当事者双方とも弁論立証をつくして、他に主張立証はないと主張し、当裁判所に対し本訴請求の当否に関する裁判を求めている経過にかんがみ、同法三八九条一項に照らして、当審において本訴請求の当否に関する本案判決をなすを相当と認めるので、以下この点につき審按する。

二、本件土地が被控訴人の所有であったこと、本件土地につき控訴人李のための本件移転登記、控訴人江口のための本件抵当権登記、本件仮登記がなされていること、控訴人李が被控訴人から本件土地の引渡をうけたこと、被控訴人が昭和四一年八月一〇日本件土地につき処分禁止の仮処分決定を得てその執行をしたこと、右仮処分の執行後、控訴人李は控訴人江口のための本件抵当権登記、本件仮登記の各登記手続をなしたものであることは、いずれも、当事者間に争いがない。右争いのない事実ならびに弁論の全趣旨によれば、控訴人李は現に本件土地を占有するものと認められ、この認定を覆する足る証拠はない。

また、右争いのない事実と、≪証拠省略≫によれば、被控訴人は控訴人李に対する本件抹消登記手続請求訴訟を本案とする保全処分として昭和四一年八月一〇日東京地方裁判所八王子支部の仮処分決定(仮処分債権者被控訴人、仮処分債務者控訴人李、仮処分債務者は本件土地につき譲渡、質権、抵当権、賃借権の設定その他一切の処分をしてはならない旨の仮処分決定)を得、同日右仮処分の執行として、本件土地につき東京法務局八王子支局同日受付第二四五〇九号仮処分登記がなされたが、その後昭和四一年一〇月一八日本件抵当権登記、本件仮登記がなされたことを認めることができる。右認定を覆すに足る証拠はない。

三、控訴人らは、本件土地については被控訴人と控訴人李との間に控訴人ら主張のような交換契約が成立し、控訴人李は本件土地の所有権を取得したものであり、本件移転登記は売買を仮装されたものにすぎない旨主張するが、この点に関する≪証拠省略≫は、≪証拠省略≫に比照して俄に信用することができないし、他に控訴人らの右主張を認定するに足る証拠はない。

かえって、≪証拠省略≫によれば、本件土地につき、被控訴人と控訴人李との間に、無催告解除の約定もふくめ被控訴人主張のとおりの本件売買契約が成立し、それにもとづき控訴人李に対し本件移転登記と本件土地の引渡がなされたこと、ところが、その後、昭和四一年七月三〇日頃、控訴人李は被控訴人に対し一週間内に本件売買代金二五〇〇万円を支払う旨約定したにもかかわらず、約定の一週間を過ぎてもその支払をしなかったので、被控訴人は同年八月中に、控訴人李に面接してその不実をとがめた上、口頭で同控訴人に対し、前記無催告解除の約定に従って本件売買契約の解除の意思表示をなしたことを認定することができる。なお、右認定の詳細については原判決理由中の原判決九枚目裏六行目以下同一二枚目裏五行目までを引用する。(ただし同一一枚目裏二行目「同月三〇日」とあるを「同月三〇日頃」と訂正する。)

≪証拠判断省略≫

なお、控訴人らは、被控訴人は契約解除による原状回復の要求ならびに本件移転登記抹消、本件土地返還の請求を放棄した旨主張するが、これを認めるに足る証拠はない。

四、以上の事実関係によれば、本件売買契約の前記解除によって本件土地の所有権は被控訴人に復帰し、控訴人李において、他に本件移転登記を維持できる権原、本件土地の占有権原について主張、立証をしない以上、被控訴人は、控訴人李に対して本件移転登記の抹消登記手続と本件土地の引渡を請求し得べく、また前記仮処分登記後になされた本件抵当権登記と本件仮登記につき控訴人江口に対しその抹消登記手続を請求し得べきものである(最高裁判所昭和四四年二月二七日第一小法廷判決・民集二三巻二号四七二頁参照)。したがって、被控訴人の本訴請求はいずれも理由がある。

五、よって、原判決を取り消した上、被控訴人の本訴請求を認容し、訴訟費用の負担、仮執行の宣言につき、民事訴訟法八九条、九三条、九六条、一九六条を適用し(主文第四項以外については仮執行宣言を付さない。)、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 江尻美雄一 裁判官 後藤静思 裁判官長利正己は転補のため署名捺印することができない。裁判長裁判官 江尻美雄一)

<以下省略>

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